photoimmunotherapy 光免疫療法のブログ

胃がん末期の父に免疫療法を薦めました。当時の技術は未熟。間に合いませんでした。抗ガン剤治療の効かなくなった末期ガンの人の希望となるように最新のがん治療情報を提供します。

チェックポイント阻害剤 関連抗体 PD-L1 アベルマブと 光免疫療法

PD-L1というタンパク質は、
胎盤
膵島細胞、
間葉系幹細胞、
免疫細胞などの
様々なタイプの正常細胞で発現しています。

一方、
PD-L1は
多くのガン細胞においては
過剰に発現しています。



ガン細胞における
PD-L1の過剰発現は、
T細胞の活性化を抑制することが示されています。



つまり、
ガン細胞はPD-L1があると
免疫系から逃れることができ
どんどんと増殖できる
ということです。


さらに
PD-L1発現が高いと
抗がん剤治療に対して効果が少なく、
その予後も
不良となることが報告されています。

PD-L1のこの機能に着目した治療法が
チェックポイント阻害です。



近赤外光免疫療法は、
抗体 - 光吸収体の複合体を
用いた新たなガン治療法です。

光免疫療法は
すでに米国FDAによって承認されており、
(頭頸部がん患者)
現在治験が
フェーズ2まで進行中です
https://clinicaltrials.gov / ct2 / show / NCT02422979)。


これまで
光免疫療法は
様々なタイプの抗体で
有効性が確認されていますが、
チャックポイント阻害剤関連抗体との
組み合わせは
いまだに行われていませんでした。

そこで
今回は
光免疫療法の抗体としてavelumab(アベルマブ)を利用して
腫瘍抑制効果を検討しました。


Oncotarget. 2017; 8(5):8807-8817.
doi: 10.18632/oncotarget.12410.


結果
アベルマブ-光吸収体(IR700)は
特異的に腫瘍に結合し、
近赤外線を細胞に曝露すると、
ガン細胞の死滅が観察されました。

マウスレベルでは、
アベルマブ-IR700複合体は
腫瘍において高度に蓄積することが示されました。

腫瘍を有するマウスを4つの群に分けました。
(1)無処置
(2)100μgのアベルマブ-IR700 静注のみ.
(3)近赤外線照射のみ、
(4)100μgのアベルマブ-IR700 静注後、近赤外線を照射。


(4)の群で、
他の群と比較して
有意に腫瘍増殖が阻害されました(p <0.001)、
また
有意に生存期間が延長しました(p <0.01)。

結論として、
抗PD-L1抗体、アベルマブは、
光免疫療法の抗体として適していることがわかりました。

さらに、
アベルマブ-IR700を用いた光免疫療法は、
ヒトのPD-L1を発現する腫瘍に対して
有望な治療法となりえる可能性があります。


まとめとして

チェックポイント阻害剤と
光免疫療法の組み合わせは
現在、
がん治療のもっともホットな
組み合わせです。

しかも
どちらも効果が高い。


チェックポイント阻害剤に使われている
抗体は複数あります。


これらを光免疫療法と組み合わせて
試すことにより
今後
より多くのガン細胞に
対応できる可能性があります。


技術はどんどんと進歩しています。

使える抗がん剤がなくなっても
あきらめないでください。

実は
あきらめないという
「こころの持ちよう」も
大切なのです。

光免疫療法 の 限界 を 突破する 抗がん剤 との ダブル効果.

近赤外光免疫療法では、
まず
抗体と光吸収体複合体を静注します。


その後、
近赤外光照射をおこなうことで
ガン細胞を特異性にたたけるのです。


最近の研究では、
光免疫療法を用いた治療により
ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陽性ガンを含む
様々なガン細胞に光免疫療法が
有効であることが示されています。

しかし
大きな問題があります

近赤外光の透過性です。

近赤外線が届かない場所にあるガン細胞を
効率よくたたくことができないのです。

つまり
近赤外線の照射技術が
光免疫療法の限界となっているのです。



その問題を解決するために
光免疫療法と化学療法の両方の利点を生かした
抗体 - 薬物 - 光吸収体複合体を開発しました。

Bioconjug Chem。
2017; 28(5):1458-1469。
doi:10.1021 / acs.bioconjchem.7b00144



抗ガン剤メイタンシノイド(DM1)を
抗体(トラスツズマブ)と結合し、
抗体 - 薬物・光活性化剤の
複合体(T-DM1-IR700)を作製しました。


HER2発現細胞における
ガン細胞毒性効果を比較することで、
T-DM1-IR700による光照射の可能性を評価しました。


コントロールには
抗ガン剤メイタンシノイドの結合していない
T-IR700を用いました。


結果として
T-DM1-IR700は、
培養細胞およびマウスレベルの実験で
いずれも
T-IR700とほとんど同じ
HER2 結合能を示しました。

T-DM1-IR700を用いた場合には、
標的細胞障害能をもつDM1が存在するため、
T-IR700を用いた時よりも
高い細胞傷害性を誘導する傾向がありました。



次に
マウスレベルです。
十分な近赤外線光を受けることができる
皮下小腫瘍モデルにおいては、
T-DM1-IR700は、
T-IR700とあまり差はありませんでした。

一方、
十分なNIR光を受けられなかった
大型腫瘍モデルにおいては、
T-DM1-IR700は、
T-IR700と比較して、
腫瘍体積を減少させ、
生存率が有意に延長しました。



つまり
抗ガン剤DM1による細胞傷害性が加わったことで
充分なNIR光照射をおこなえない腫瘍にたいしても
アプローチできる可能性がでてきました。


感想
抗ガン剤を結合する抗体に結合することで
効率よく抗がん剤がガン細胞に届きます。
さらに
光照射をすることで
ガン細胞は破壊されます。

技術はどんどんと進化しています。


現在は
頭頚部ガンにのみ臨床試験
行われていますが、
近いうちに
同時進行で
様々なガンに対して
光免疫療法の治験が始まると思います。

一人でも多くのがん患者さんが
希望を持てますように
また
現在、
抗ガン剤も効かなくなったがん患者さんたちにとっては
「光免疫療法」は一筋の希望です。

免疫療法は怪しいという
イメージがあります。

実際に、
私の父親は
樹状細胞免疫療法を受けましたが、
いまだに効果があったのかどうかは
わかりません。


一方、
光免疫療法は
メカニズムや効果が
いずれもはっきりとしています。


父親が生存していれば
できるだけ早く
光免疫療法の治験を
受けるように行動したと思います。



すべてのガンが
治療できる日が早く来ますように。

光免疫療法 が 膀胱がん につかえる可能性を示唆. 特異抗体には上皮成長因子受容体.

光免疫療法を膀胱がんモデルに対しておこなった
アメリカ国立がんセンターからの報告です。

Mol Cancer Ther. 2017 (10):2201-2214.
doi: 10.1158/1535-7163.



これまでの経緯

膀胱ガンに対して光を用いた治療は
比較的昔から用いられてます。
ただ問題はその特異性です。
現状では
正常細胞をも傷害してしまうのです。


この研究では
EGFRを発現する膀胱ガンを標的として
光免疫療法(PIT)の効果を評価しました。

EGFRとは
epidermal growth factor receptor、
上皮成長因子受容体です。



方法
まず
抗EGFR抗体であるパニツムマブを
光吸収剤(PA)、IRDye 700Dx(IR700)で標識しました。
こうして作製した
パニツムマブ-IR700抗体複合体を
以下の実験に用いました。


膀胱ガン組織マイクロアレイ
および
膀胱癌細胞株について
EGFRの発現について分析しました。

さらに
増殖アッセイ、
透過型電子顕微鏡
および
反応性酸素種の生成を用いて、
光免疫療法による細胞死のメカニズムを研究しました。

最後に、
マウスに膀胱がんを移植して
in vivo効果を異種移植片で調べました。



結果として

膀胱ガン組織アレイのEGFR染色では、
ほとんどの膀胱ガンが
様々なレベルでEGFRを発現しており、
中でも扁平上皮細胞癌(SCC)が
最も強くEGFR発現していたことが明らかとなりました。

近赤外線によって活性化された
パニツムマブ-IR700抗体複合体によって、
膀胱ガンUMUC-5細胞は効率的に死滅しました。

一方、
パニツムマブ単独、
近赤外線照射なしのパニツムマブ-IR700、
または近赤外線単独では
細胞に対して効果はまったくありませんでした。


走査型電子顕微鏡観察から、
光免疫療法による細胞死が
「壊死」によることがわかりました。

また
一重項酸素種は細胞死に寄与しました。
一重項酸素とは、
種々の活性酸素種(フリーラジカル)を発生させて。
細胞にダメージを与えるのです。


パニツムマブ-IR700複合体を用いた光免疫療法では、
UMUC-5異種移植片ガンの増殖が有意に減少しました。


結論として
今回の結果から
光免疫療法は、
膀胱ガンの新たな標的治療薬となりえます。

さらに
抗EGFR抗体であるパニツムマブを用いることで
EGFR発現膀胱ガン細胞を「選択的に」死滅させるため、
膀胱ガンの患者さんに
将来有効な治療法となるはずです。

感想

光免疫療法では
ガン特異的な抗体がカギとなります。
今回の報告から
膀胱がんにおいては
EGFRに対する抗体が
使える可能性を実証しています。

一日も早く日本で
光免疫療法の治験が始まることを望んでいます。

光免疫療法 の 欠点 は 特異抗体 の数の少なさ. 卵巣がんへの試み

近赤外線光免疫療法(NIR-PIT)は、

光吸収剤と特異抗体を利用した

新たな癌治療法です。

 

 

光免疫療法では、

特異抗体は非常に重要であり、

ガン細胞膜上の

特定のタンパク質に対する抗体が

その結果を左右するといっても過言ではありません。

 

 

言い換えれば

あまり特異性が高くない抗体を用いて

光免疫療法をすると

非特異的に抗体-IR700複合体が

細胞膜に結合してしまいます。

 

そのため、

近赤外線を与えると

ガン細胞以外も

ダメージを受けるということです。

 

 

2016年に発表された

以下の光免疫療法の論文では

卵巣がんを標的として

「β-D-ガラクトース受容体」に対する分子(抗体と類似)を試しました。

 

Oncotarget. 2016; 7(48):79408-79416.

doi: 10.18632/oncotarget.12710.

Near-infrared photoimmunotherapy with galactosyl serum albumin in a model of diffuse peritoneal disseminated ovarian cancer.

 

 

 

ガラクトシル血清アルブミンは、

アルブミンのカルボキシル基に

ガラクトース分子が結合修飾したアルブミンです。

 

ややこしいですが

要するに

修飾を受けた「アルブミン」です。

 

 

実は

特有の修飾を受けたアルブミン

卵巣癌を含む多くの癌の細胞表面上で

過剰発現しています。

 

 

この特殊なアルブミン

細胞表面レクチンである

β-D-ガラクトース受容体に結合します。

 

 

この一連のプロセスが

細胞にどういった役割や意味があるのかは

まだ分かっていません。

 

 

しかし

この分子を利用することは可能です。

 

 

そこで

β-D-ガラクトース受容体に結合する

特殊なアルブミン-IR700複合体をつかって

播種性腹膜卵巣癌モデル(SHIN3細胞)における光免疫療法の

効果を検証しました。

 

 

 結果です。

 

特殊なアルブミン-IR700複合体は

SHIN3細胞に迅速に結合し、

細胞内に取り込まれ

エンドソームと呼ばれる小胞内で蓄積しました。

 

さらに

特殊なアルブミン-IR700複合体を投与し、

近赤外線を照射することで

ガン細胞の増殖抑制が

マウスレベルで認められました。

 

ただ、 

これまで他のガンに用いられているような

抗体-IR700複合体ほど効果はなく、

さらなる効果的な特異抗体が必要という結論に至りました。

 

試行錯誤の繰り返しが

技術を一歩一歩進歩させるんですね。

 

 

広くがん患者さんに

光免疫療法が使われる日が

一日でも早く来ることを望みます。

 

肺がんに光免疫療法を適応. 最新報告マウスレベル

肺がんモデルにおける
近赤外光免疫療法(光免疫療法、NIR-PIT)の
効果を検証した
2017年に出たばかりの論文です。

Mol Cancer Ther. 2017 (2):408-414.
doi: 10.1158/1535-7163.MCT-16-0663.
Near Infrared Photoimmunotherapy in a Transgenic Mouse Model of Spontaneous Epidermal Growth Factor Receptor (EGFR)-expressing Lung Cancer.



光免疫療法は
抗体の特異性と
近赤外線光を利用した新しい癌治療法
です。





光免疫療法のほとんどの研究では
ガン細胞を移植したモデルで行われています。
そこで
この研究では、
ヒトEGFR(hEGFR-TL)を
発現する自発性肺癌モデルを利用しました。


方法
このマウスを以下の3つの群に分けました。

(1)無処置(対照)
(2)パニツムマブに結合した150μgの光吸収剤、EGFR 抗体 - 光吸収体結合体を静脈内注射のみ。
(3)150μgの抗体 - 光吸収体結合体を静注し、近赤外線を照射する。


各治療は毎週3週間まで行った。

最初のNIR-PITの1日前、および
3日,6日,13日,20日,27日、
および34日後にMRIを行った。


肺腫瘍の相対的容積を、
MRI時点での腫瘍容積を初期容積で割って計算しました。



結果として

腫瘍体積比は、
対照群と比較して光免疫療法群(3)で
有意に抑制された(すべての時点でP <0.01)。


結論として
光免疫療法は、
自発性肺癌モデルでも効果的に治療することができた。

また
MRI
光免疫療法の治療効果を
モニターするのに適していた。

これまで
移植したガンを光免疫療法で治療した研究がほとんどです。
今回の研究では
自然に
ガンを発生するモデルを使っており、
このマウスでも
光免疫療法の効果が立証されました。

ヒトの場合、
すべて
自然にがんが発生、発症するため、
今回のモデルの効果は
ヒトにも光免疫療法が
有望だという証拠になります。

早く
日本で光免疫療法の
治験が始まりますように。

そして
多くのがん患者さんが
救われますように。